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大阪高等裁判所 昭和43年(ま)2号 決定 1969年2月03日

主文

請求人高畠和一、同植松元夫、同酒井猛を除くその余の請求人ら三二名に対し別紙(Ⅱ)刑事補償計算表中補償金額欄記載の各金員を交付する。

請求人高畠和一、同植松元夫、同酒井猛の本件各請求を棄却する。

理由

本件刑事補償請求の理由は、別紙(Ⅲ)刑事補償請求書に記載のとおりである。

よつて案ずるに、請求人らに対する当裁判所昭和三八年(う)第一九七〇号、第一九七一号、第一九七二号騒擾等被告事件記録によると、請求人らは別紙(Ⅰ)裁判経過表記載のとおり、請求人らに対する被告事件名欄記載の各被告事件について、請求人三好貞次郎、同畠山晴夫を除くその余の請求人三三名に対し昭和三八年六月二二日、右三好貞次郎に対し同年同月二九日、右畠山晴夫に対し同年一〇月一五日、いずれも大阪地方裁判所が、原審主文欄記載の判決(うち有罪の部分の罪名は原審認定罪名欄記載のとおり)を言い渡し、これに対し検察官控訴欄、被告人控訴欄各記載のとおり、検察官および請求人李樹寛、同夫子浩の両名から、それぞれ控訴の申立がなされ、昭和四三年七月二五日当裁判所が当審主文欄記載のとおり、請求人らに対する原判決の全部または一部の破棄、自判(当審罪名欄記載の罪につき)の判決を言い渡したが、右判決は、検察官の控訴理由中威力業務妨害の事実誤認に関する部分のみ理由があるが、その余の検察官の控訴理由および右請求人両名の控訴理由はすべて理由がないとし、結局右のように原判決を破棄したうえ、請求人らに対する威力業務妨害を有罪とし、騒擾を無罪とし、なお請求人李樹寛、同夫子浩の両各については原審が確定した事実と併わせ、前示当審主文欄記載のように処断したものであること、および右判決に対し同年八月八日請求人高畠和一、同植松元夫、同酒井猛の三名から上告の申立がなされ、その余の請求人については上訴期間の経過により右判決が確定したものであることが認められ、右被告事件記録および当裁判所の事実取調の結果によると、請求人らは右被告事件に関し別紙(Ⅱ)刑事補償計算表(以下単に計算表という)のとおり、それぞれ逮捕、勾留されたうえ取調を受け(一部の者らは未成年のため観護措置、検察官送致を経て)、そのまま起訴され、いずれも保釈により釈放されるまで、各拘束日数欄記載の期間身体の拘束を受けていたものであることが認められ、右請求人らはいずれも刑事訴訟法、少年法による未決の抑留および拘禁を受けていたことが明らかである。

そして刑事補償法一条一項によると、刑事訴訟法による通常手続において無罪の裁判を受けた者が、同法、少年法によつて未決の抑留または拘禁を受けた場合には、その者は、国に対して、抑留または拘禁による補償を請求することができることとされており、この場合の「無罪の裁判」は必ずしも判決主文において無罪の言渡をした場合に限らず、判決の理由中で科刑上一罪の一部について無罪の判断を示した場合をも含むものと解するのが相当である。当裁判所は右被告事件について原判決を破棄のうえ自判するにあたつて、その理由中で請求人ら全員に対し本件公訴事実中騒擾の点については犯罪の証明がなく無罪であるとしたが、この点は有罪と認定した威力業務妨害と科刑上一罪の関係にあると認めてとくに主文で無罪の言渡をしないとしており、当裁判所の判決は、請求人らに対する騒擾の点については、その主文で無罪の言渡こそしていないが、無罪の判断を示しているのである。なお請求人李樹寛に対し有罪とされた暴力行為等処罰に関する法律違反の罪は、騒擾罪に吸収されず、これと観念的競合の関係にある共同器物損壊の罪であり、同夫子浩に対し有罪とされた暴力行為等処罰に関する法律違反の罰は、騒擾罪とは別個の、これと併合罪の関係にあるものであつて、右両名とも騒擾の点について無罪の判断を受けていることに変りはない。

もつとも、右法条にいう無罪の「裁判」とは確定裁判をいうものであると解すべきところ、事件が一個である限り上訴は不可分であるから、科刑上一罪の一部につき判決の理由中で無罪の判断が示された場合であつても、他の有罪とされた部分を不服として上訴をしたときは、その全部が上訴審の審判の対象となり、上訴審の判決が確定するまでは、右無罪部分も確定したものとはいえないから、右無罪部分に関し補償の請求をすることはできないのである。本件請求人高畠和一、同植松元夫および同酒井猛の三名は前記のように当裁判所の判決に対し上告の申立をしたもので、騒擾の点の無罪部分もこれと科刑上一罪の関係にある威力業務妨害の有罪部分とともに最高裁判所に係属中であつて、右無罪の裁判はいまだ確定しておらず、従つて右請求人三名は現在において本件刑事補償を受けることはできない。

そこで進んで右請求人三名を除くその余の請求人三二名について考えるに、刑事補償法三条二号によると、一個の裁判によつて併合罪の一部について無罪の裁判を受けても他の部分について有罪の裁判を受けた場合には、裁判所の健全な裁量により、補償の一部または全部をしないことができるとされており、右にいう「併合罪」とは刑法四五条前段の狭義の併合罪をいうものではなく、広義の併合罪をいい、本件騒擾と威力業務妨害のような科刑上一罪の場合も含むものと解すべきである。そして請求人らの逮捕・勾留の罪名を検討すると、「騒擾」の罪名のみの者のほか、これに「威力業務妨害」「暴力行為等処罰に関する法律違反」「強要」などの一または二の罪名が附加されている者、あるいは「暴力行為等処罰に関する法律違反」の罪名のみの者などがあること、別紙(Ⅱ)計算表の逮捕罪名欄、勾留罪名欄に記載のとおりであるけれども、その各勾留状および逮捕状等に記載の被疑事実の内容、起訴状記載の公訴事実の内容および本件被告事件の記録に現われた捜査の経過その他諸般の事情にかんがみると、右勾留状等に記載の罪名が何であるかという形式上のことはさして問題ではなく、各請求人とも起訴された事実の全部について逮捕、勾留された場合とその実質においてなんら異なるところはないと認められる。

しかしながら、右記録を精査し、本件の捜査および原審における審理の経過をつぶさに検討すると、各請求人らの身体拘束の理由および必要性は主として騒擾の点にあり、しかも右騒擾の性質、事案の内容等に照らすと、威力業務妨害その他の事実も、その法律面はともかく、具体的社会的事実の面ではほとんど騒擾の組成事実中に含まれているのであつて、法律面を離れた具体的社会的事実の面では騒擾のほかにとくに問題となる点はきわめて少なく、身体拘束の理由ないし必要性も、その実質においては、もつぱら騒擾の点の具体的事実によつて決せられる関係にあつたといつて過言ではないと認められる。そして記録に現われたその他の諸般の事情をも勘案するときは、本件は「一部(騒擾)について無罪の裁判を受けても、他の部分(威力業務妨害その他)について有罪の裁判を受けた場合」ではあるけれども、逮捕、勾留、観護措置のいずれの期間についても、同法三条二項に基づく裁判所の裁量による補償の一部の拒否はこれをしないのが相当であると考える。

もつとも当審判決においては、別紙(Ⅰ)裁判経過表中の当審主文欄の記載に明らかなように、請求人夫徳秀、同李樹寛、同夫子浩ら三名はその各有罪部分について宣せられた懲役刑に、各人の未決勾留日数の一部が算入されており、また原審判決においても右表の原審主文欄の記載に明らかなように、請求人金哲珪、同洪鐘安の両名は原審で確足した有罪部分(別件)について、宣せられた懲役刑に、同じく未決勾留日数の一部が算入されているので、この点について考えるに、未決勾留は本刑に算入されることによつて、刑事補償の対象としては、刑の執行と同一視せらるべきものとなり、もはや未決勾留としては刑事補償の対象とはならない(最高裁判所昭和三四・一〇・二九決定、集一三―一一―三〇七六)のであり、その本刑に執行猶予が付されている場合であつても、未決勾留の算入、刑の執行猶予の性質にかんがみると、実刑の場合と同様であると解せられるから右請求人ら五名については、その算入された未決勾留日数は本件補償の対象からこれを除外すべきものである。

そしてまた、検察官の提出した資料によると、請求人柳志浩は昭和二七年一一月二四日本件とは別個の放火、爆発物取締罰則違反の事実について大阪地方裁判所に起訴され、同日右事実につき勾留され、同二八年七月一六日保釈釈放されるまで継続勾留されていたもので、右勾留は本件関係の勾留と重複してなされていたものであるところ、右別件の被告事件については同三〇年四月五日大阪地方裁判所において懲役三年、未決勾留二〇〇日算入の判決言渡を受け、同月一二日確定したことが認められる。従つて右未決算入のなされた二〇〇日は本件の刑事補償の対象から控除すべきものである。

そうすると、結局前示別紙(Ⅱ)計算表に記載の拘束日数、うち未決勾留の算入のあつた者は右拘束日数から未決勾留算入日数を差し引いた日数が、補償の対象となる日数となり、その各請求人ごとの日数は同表補償日数欄に記載のとおりである。

そこで補償の額について考えるに、刑事補償法四条二項に掲記の諸般の事情を考慮するときは、前示請求人三二名とも、同条一項所定金額の範囲内である一日一、三〇〇円の割合による額をもつて相当であると認められるから、これに右請求人らの前示補償日数欄記載の各日数を乗じた額、すなわち同表補償金額記載の各金員を交付すべきものとする。

よつて請求人高畠和一、同植松元夫、同酒井猛を除くその余の請求人ら三二名に対し、刑事補償法一六条前段により前示各金員を交付することとし、右請求人高畠和一ら三名の本件請求は理由がないから、同条後段によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。(杉田亮造 野間礼二 西村清治)

別紙(Ⅰ) 裁判経過表<省略>

別紙(Ⅱ) 刑事補償計算表<省略>

(編注・総交付額 二、二二八、二〇〇円

〔一人当りの最高額 四七三、二〇〇円〕)

別紙(Ⅲ) 刑事補償請求書<省略>

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